前奏なしで始まる近年の楽曲
興味深いツイートを見かけた。近年の楽曲は昔の楽曲と比べて前奏が短くなっているという。そしてその傾向は、サブスクの流行による影響だという。
最近のヒット曲調べてみました
白日 0秒
Lemon 0秒
紅蓮華 0秒
夜に駆ける 0秒
まちがいさがし 0秒
馬と鹿 0秒
マリーゴールド 20秒
Pretender 30秒
確かにいきなり歌いだしが多いですね
特に米津は— eikura (@ananarukie) July 7, 2020
実は流行歌はあまり詳しくないが、言われてみれば前奏なしでいきなり歌い出しの曲が近年多い気がする。そしてそれが近年流行しているサブスク(サブスクリプション)の影響というのもうなづける。サブスクというのは要は、SpotifyやAmazon Musicや、Apple Musicなどといった定額制配信サービスのことである。ユーザーは月額料金を払えば好きな曲を好きなだけ聞くことができる。クリック一つで気楽に様々なアーティストの音楽を選び、飽きたら別の曲に変えることができる。ゆえに、再生して数秒で他の曲に変えられてしまう可能性があるから、曲の開始数秒でいかに聴き手の心を掴むかの勝負になっているのである。そういった状況の中で、前奏を長くしてなかなか歌に入らない構成はリスキーとなってしまうのだ。
サブスクのアーティスト収入の仕組み
ところで、サブスクにおいてアーティスト側の収益は一体どのように配分されるのか。レコードやCDの場合は、消費者はアルバムやシングル盤といった商品に対してお金を払うが、サブスクは配信サービスそのものに対して料金を支払う。レコードやCDであれば売り上げた枚数に応じてアーティストの収益が変わるが、サブスクでは、それぞれの曲ごとの再生数によって収益が決まってくる。
レコードやCDは消費者が購入した後、家でどの曲を何回聞いても当然アーティストの収入は増えない。そう考えると一見、曲が再生されるたびに収入となるサブスクの仕組みはレコードやCDと比べて効率よく稼げそうにも思える。しかし、実際はアーティストは苦しい戦いを強いられているようである。
ちなみに
Apple musicで1回聴くと1円
Spotifyで1回聴くと0.3円
レーベルに入ります。
そこからアーティストには印税が1%
作家にも2~3%くらい?サブスクリプション中心になったらアーティストは印税に頼れないだろうなー
もういい加減に半世紀前の計算式を見直すべきだと思います。
— 安原兵衛 (@HYOE_YASUHARA) May 9, 2018
レコードからCD、CDからダウンロード販売を経てサブスクに至る楽曲販売方法の変遷がある一方で 、利益分配の構造はほぼ一貫して変わっていない。アーティスト印税はだいたい1〜3%と言われるが、レコードやCDだと販売する商品の単価が高いためアーティストに十分な収益が入っていた。しかし、サブスクでの収入にも同じ分配率が適応されるとアーティストに入る収入は大きく減ってしまう。例えば最近、山口百恵さんの楽曲がサブスク解禁となって話題となり、三日間で100万回再生されたそうだが、本人に入る収入は1万円程度だという。
サブスクで簡略化する楽曲
サブスクの普及によって曲の前奏が短い、もしくはいきなり歌い出しの曲が増えてきている。これは冒頭でも触れた通り、ワンクリックで次の曲に変えられてしまう恐れがあるからである。この他にも、サブスクがもたらした楽曲の変化がある。
たとえば前奏だけでなく、間奏も短くなったり無くなったりしている傾向にあるそうだ。かつて間奏といえばギターソロが入ったり楽曲を華やかに飾る見せ場の一つだった。しかし、サブスクでは再生数が収入に反映するため、できるだけ何回も聴いてもらう必要がある。そのため、あまり作り込みすぎた長い曲は不利になるのである。そのため、サブスクの普及によって曲全体の長さが短くなっていっている。
短くなり続けるポピュラーソング
Billboard Top 100曲 その曲の長さの中央値の変遷 https://t.co/5zguzQNHx3 原因はSpotify等ストリーミングサービスの報酬システム。プレー回数に応じてアーティストに報酬が分配されるため。 pic.twitter.com/p5D1qKvVvg— Spica (@Kelangdbn) June 20, 2020
しかし、こういった配信媒体の特性による楽曲構造の変化はサブスク時代だけの現象ではなかった。そもそも、4分以上の曲が市場に流通するようになったのは1947年にアメリカのコロムビア・レコードがLP版を量産するようになってからであり、それ以前の曲はおよそ3分程度に収める必要があった。つまり、音楽が音源という商品として流通するようになってから今に至るまで、媒体の仕様が楽曲の構造に影響を与えているのである。
アーティストと聴き手が作る音楽
戦後は音楽が産業として急速に発展した時代だった。アーティストはその中で自らの表現を追求していき、音楽の歴史を紡いでいった。近年広がりを見せるサブスクだが、気楽にほぼ無制限に聴けるという使いやすさからこれからもさらに普及が進むだろう。そうなったときに、アーティストたちは生き残りをかけて、楽曲をビジネスモデルにより即した形へ変容させていくのは必然である。楽曲自体を作り出すのはアーティストサイドだが、聴き手である我々消費者も広い意味で楽曲を作っていると言える。
とはいえ、現在もサブスク以外の媒体、レコードやCD、ダウンロード販売も存在しているのも事実である。かつてCDの出現によって売り上げが激減したレコードであったが、近年売り上げが伸びているという。一見大きくてかさばるレコードだが、音楽がインターネット配信によって形がなくなった今、モノとして存在するレコードの価値が再評価されつつある。
サブスクが主流となりつつあるといえども、見方を変えれば、現在は消費者が音楽の聴き方を様々な方法で選べる時代である。普段使いでいろいろな楽曲を聴くときはサブスク、好きなアーティストのアルバムが出たときはレコードやCDで買って応援するなど使い分けをしてみるのもいいかもしれない。
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